挑戦する、失敗はリスクではない!_1/2

~災害リスク情報事業を手掛ける会社社長の「挑戦のすすめ」~
株式会社Spectee
代表取締役CEO 村上 建治郎 氏

アメリカで、勉強漬けの学生時代

Q:アメリカのネバダ大学物理学部物理学科をご卒業されたとのことですが、学生時代はどのような学生でしたか?

僕はそれほど英語ができない状態でアメリカに行ったので、入学して最初の1年目は全く授業についていけず、半分ぐらいは理解できていない状態で、すごく大変でした。
結果として1年目で受講した科目の半分ぐらいは「リテーク」つまり、その科目を再度取り直しました。
メジャー(主専攻)で物理学、マイナー(副専攻)で政治学を学んでいたのですが、学校のすぐ近くにある図書館が夜中12時までやっていたので、授業が終わったら図書館に行く生活を送っていました。こうして振り返ると学部生の頃はずっと勉強してましたね。
お陰様で、4年生のときには、ほとんどの単位を取り終わっていたので、時間が結構あり、その時間を使ってアメリカ中を旅行していました。

「人と同じことはやりたくない」

Q:海外に正規留学する学生は最近でもまだ少ない方だと思うのですが、当時はすごく珍しかったんじゃないですか?

そうですね。今でこそ、留学すると就職に強いという傾向にありますが、私の時代は就職活動の際「日本の大学でないと、大卒として認めません」などと言われ、大卒の枠で入社ができないことも普通にありました。
交換留学のような形を取る人はいましたが、正規留学して卒業する人は少なく、すごくレアな存在でした。

Q:ご自身で正規留学を決めて行かれたのですか?

はい。純粋にアメリカに行きたかったのと、憧れみたいな感じですね。私が行く直前くらいに、野茂英雄さんがメジャーに行って大活躍したんですよ。それを見て、野球が好きだったこともあり、単純に「アメリカいいな」って思ったんです。
「これを勉強するために留学したい」というよりは、「アメリカって何かすごい!」という憧れの思いが行動に繋がったんだと思います。行ってみたら大したことないんですけどね(苦笑)。

Q:子供の頃から新しいことに挑戦したり、周りと違う道を選択することが多かったのですか?
それはそうかもしれないですね。あんまり人と同じことをやりたくないっていうのは昔からありました。

震災での体験から起業まで

Q:他の記事で、東日本大震災での経験が起業の一つのきっかけになったというのを拝読しました。震災での「原体験となるような経験」は、どのようにして「起業」というアクションに結びついていったのか。詳しい経緯をお聞かせください。
今のビジネスに繋がる基本的なアイデアみたいなものは、東日本大震災で得た経験からできています。「震災があって、その経験をもとにそこから起業に繋がった」かというと、必ずしも「はっきりそうです」とは言えないですね。元々「いつか起業したい」とは昔から思っていたんですよ。

留学経験が起業のモチベーションに

私がアメリカに行ったときに、同期の何人かは大学にいる間に起業していました。大体3年生か4年生ぐらいになったら、「僕、起業するから辞めます」みたいな人たちが出てくるんですよね。それもすごくアメリカらしいなと感じました。
あまり(当時の)日本では考えられないですが、アメリカでは起業する人たちが当たり前にいる環境で、起業することが「特別なこと」ではなかったです。
私が行ったのは98年頃なので、すでにマイクロソフトやヤフー、Google、アップルなどもあり、その人たちを追いかけて起業する人たちがいた時代なんですよね。そういう「起業する」ということがまあまあ当たり前の環境にあったので、自分もいつか起業したいなと昔から思っていました。

実際の「起業」へ、背中を押した出来事

その後、日本に戻って就職したのですが、将来は起業したいという想いもあり、ビジネススクールに通っていました。
ちょうどビジネススクールを卒業した年が2011年の3月で、震災が起き、卒業式が無くなってしまいました。そのときに、自分の人生について改めて考え、「この先いつ何が起こるかわからない、思ったときに行動しよう」と、被災地にボランティアに行き、結果的に会社を辞めて起業しました。
ボランティアは会社の制度や有給を活用して行っていたのですが、最終的にいろんな休暇制度をすべて使って活動に没頭していました。結果として仕事と両立していくのが難しくなったこともあり、思い切って会社を辞めて起業したという感じなんです。なので、起業したタイミングでアイディアがあってこういうことがやりたいから起業する!というようなものは、実はあまり明確なものはありませんでした。

震災後のボランティアで見えてきた課題

ボランティアをしていたときに、災害において「被災地の現状」が正しく伝わっていないなと感じたんです。実際に現地で話を聞いたり自分の目で見たりしたものと、東京にいてテレビなどニュースを通じて伝わってくるものはかなり違うなと感じました。
たとえば、当時ちょうどボランティアの受付が始まったばかりの頃に、被災地に向かったのですが、その数日前に東京ではテレビの中継で「全国からこんなにボランティアの方が集まっています」と、ボランティアセンターに人が並んでいる様子が映されていました。

しかし、実際に私が行った場所では、ボランティアセンターには殆ど受付している人がいなく、「人が来てくれなくて本当に困っています」と話していました。数日前にテレビで見たあの光景はなんだったんだろうと思いました。本来伝えなきゃいけないのは人が集まっていることよりも、人手が足りないこっちのほうなんじゃないのかなって思ったんです。
もっとうまく情報を伝えられれば、人手が足りないところにも人が集まり、復興がもっとスムーズに行くんじゃないかと、そういうことをすごく考えたんですよね。
災害時にちゃんと情報を伝える仕組みが必要だというのを感じて、起業した後に「それを解決できる仕組みを作りたい」と考えながら事業を作っていきました。

起業して、本当に苦労するのは「人が増えてから」

Q:実際に会社を創業してから当時苦労したこと、大変だったことは、どういったことがありましたか?

会社って、個人でやっている分には、そんなに苦労ではないんですよね。私は起業して最初の1年くらいはずっと一人だったので、なかなか収入を得られないなどはありましたが、自分が好きなことやっている感じなので、意外とそこまで苦しいとは思いませんでした。

難しいのは、そこからメンバーが増えてチームができはじめてからですね。
まず収入がないとその人たちの給料が払えないので、銀行などからの借り入れやベンチャーキャピタルからの資金調達など、いろいろやっていかなきゃいけない。あとは、メンバーそれぞれがいろんな思いや背景がある中で、その上でチームを回していく必要も出てきます。
ビジネスモデルを作ったり、お客さんを獲得したり、ブランドを作ったりすることも大変ですが、それ以上に大変なのは人がどんどん増えて組織が大きくなる中で、どうやってうまく運営していくかということだと思います。この10年間は、ずっとそれをやり続けてる感じです。

Q:それは10年続いた今でもでしょうか?

はい、10年続いた今の方がもっと大変ですね。

Q:ところで、最初のメンバーはどうやって、どういう基準で選んでお声かけしたんですか?

最初は募集したわけではなく、自分が知っている「良さそうな人」を引っ張ってきた感じです。今も創業初期のメンバーはほとんど残っています。
最初に入ったCDOの岩井は、大手企業のエンジニアだったんですけど、秋葉原のコワーキングスペースで一緒に作業をしていて、「一緒にやろう!」と声をかけました。

CTOの藤田は、ビジネススクールで知り合いました。私がシスコシステムズという外資の会社にいた際、彼が当時働いていた企業のビルが一緒だったのでランチに行って起業の話をしたりしていました。

「エンゲージメント」が組織を成功に導く鍵に

Q:会社設立から10年間。経営において大切にしていることなどあればお聞きしたいです。

先ほどの通り、組織がとても大事なので、人を大切にしています。うちは幸いにもこれまで辞める人がほとんどいない状況です。それは、単純に働きやすい環境を整えたりするだけではなくて、社員が頑張れる状況を作ることがすごく大事だと思っています。結局そこがしっかりしてないとうまく回らないので、すごく気を使っていますね。
その一貫として、うちではよく「エンゲージメント」という言葉を使っています。スペクティでは、エンゲージメントを「絆」と訳しています。社内の人同士はもちろん社外に対しても「エンゲージメント=絆」を大切にしましょうということをよく言っています。ボランティアの経験からも人と人との「絆」を大切にすることがしっかりしていると、大体うまくいくと感じます。

Q:そのために具体的にしていることはありますか?

スペクティでは「エンゲージメント委員会」というのを作って、社員が自発的に「エンゲージメント」を作る活動を進めています。このエンゲージメント委員会にはいろんな部門の人たちがいて、エンジニアもいれば、コーポレート、人事、営業の人たちもいます。様々な部門から代表で集まって、どうしたら社員のエンゲージメントが高まるかを考えて、イベントを開催したり制度を作ったりしています。
コロナ以降はほとんどがリモートワークになって、出社してメンバーが顔を合わせる機会も少なくなりました。そうなるとコミュニケーションが薄くなったりして社員同士の繋がりが弱くなってきてしまうので、それを何とかしたいという思いもあって、エンゲージメント委員会を発足させました。

Q:絆がエンゲージメントに繋がるというお話でしたが、「働く」という場面で、深くつながるより、少しドライにやっていきたいという人もいたりするのではないでしょうか。
確かにみんながみんな、密に繋がりたいっていうわけではないですよね。「仕事は仕事、プライベートはプライベート」という風にちゃんと分けている人たちもいて、それも大事だと思います。なので、スペクティのエンゲージメントは、「みんなで飲み会に行きましょう」とかそういうことではなく、お互いの関わり方を尊重しつつ、「信頼関係を築いていく」ことを重要視しています。それが仕事をする上で大事なことですし、それがないと仕事を進めていくのはなかなか難しいと感じます。

「エンゲージメント委員会」社内での取り組み

Q:エンゲージメント委員会の具体的な取り組みの例を教えてもらえますか。

スペクティには防災に関心や強い思いを持った方が多く集まっています。そこで、昨年多様な社員が共通して楽しめるイベントとして、「防災運動会」を開きました。イベント会社の協力を得て、広いスペースを使ってチームに分かれ、防災グッズを使ったリレー競争やジェスチャーゲームを実施しました。ただ集まって喋るのではなくて、みんなが「防災」という共通するテーマを通して絆を深めるための取り組みの一例になります。終了後に実施したアンケートでは「楽しかった」「普段あまり話さない人とともコミュニケーションが取れた」など、非常に高い評価でした。

▼Spectee 村上代表のインタビュー第二弾はこちら▼

今回お話をお伺いしたのは・・・

株式会社Spectee
代表取締役CEO 村上 建治郎 氏

1974年 東京都生まれ
米国 ネバダ大学 理学部 物理学科卒
早稲田大学大学院 商学研究科 修了(MBA)

ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米バイオテック企業にて日本向けマーケティングに従事、2007年から米IT企業シスコシステムズにてパートナー・ビジネス・ディベロップメントなどを経験。
2011年に発生した東日本大震災で災害ボランティアを続ける中、被災地からの情報共有の脆弱性を実感し、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスの開発を目指し株式会社Specteeを創業。著書に「AI防災革命」(幻冬舎)

 

“危機”を可視化する
社会のレジリエンスを高め、持続可能な世界の実現へ

「”危機”を可視化する」をミッションに、SNSや気象データ、カーナビ情報や道路カメラなどのさまざまなデータから災害やリスク情報を解析し、被害状況の可視化や予測を行っています。
AIリアルタイム防災・危機管理サービス『Spectee Pro』は、SNSや気象情報、自動車のプローブデータ、ライブカメラなどを解析し、世界で発生する災害や危機を、迅速に収集、可視化、予測することができ、災害対応や危機管理、物流やサプライチェーンのリスク管理などを目的に、官公庁、自治体、報道機関、交通機関、通信会社、メーカー、物流、商社などに導入いただいています。

また、2023年11月には製造業向けのサプライチェーン・リスク管理サービス『Spectee Supply Chain Resilience』の提供を開始しました。製造業などのサプライチェーンを見える化するとともに、SNS・気象データ・全世界のローカルニュースや地政学リスク情報など様々なデータをリアルタイムに解析し、サプライヤー周辺で起こる危機を瞬時に覚知し、サプライヤーの被害状況や製品への影響、納期の遅れなどを迅速に把握することが可能になります。

会社名:株式会社Spectee
所在地:東京都千代田区五番町 12-3

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