~スピード感をもった決断と行動で未来を変える~
株式会社インバウンドプラットフォーム
代表取締役社長 王 伸 氏
やりたいことに向き合い行動する
大学は慶応義塾大学の経済学部に進学しました。
将来的に経営に携わりたいという思いを強く持っていましたが、何を学んだら良いのかを当時はよくわかっていなかったです。
そのため、どんな分野で起業しても活かせるような学問が良いと思い、経済学部に入りました。
進学してから気づいたのですが、経済学部は文系学部の中でも理系に近く、数学や統計学の分析や解析などの授業が多かったです。実際に進学してからは経済学の必修の授業は取りつつも、商学部の授業や経営に関する授業、簿記に関するもの、場合によっては行動心理学に関する授業を履修していた記憶があります。
サークルには複数所属していました。
一番最初に入ったのはテニスサークルですが、飲み会が多く、次第に行かなくなりました。
もう一つ、慶応義塾大学には「経済新人会」という割と大きいサークルがあり、みんなでマーケティングの勉強をして、レポートを作って発表するサークルに所属していました。意識の高い先輩方も多くいて、良かったこととしては先輩方と今でも繋がっていたり、今だと有名な会社の役員とか社長になってる先輩方もいらっしゃって、そんな方々と今でも交流が続けられていることは、このサークルに所属して良かったと感じる点です。
もう一つは株式投資のサークル、SPECという団体があり、そこに所属していました。次第に、一つの大学だけでやっている限界を感じて、全国の投資サークルの友達に声をかけてUSICという学生団体を20歳の時に作りました。学生投資連合という今もあるサークルで、僕らの頃は学生向けにちょっとしたフリーペーパーを作ったり、簡単なビジネスコンテストをやったりという規模でしたが、今は全国何十大学で何千人という規模の大きいサークルになっているようです。後輩はすごいなぁと、感心しています。
そこで知り合った人たちも様々な業界で活躍しているので、人脈を得られたという点も有意義だったと感じます。
所属するコミュニティでは先頭に立って何かをディレクションしていくことが割と得意でした。人を繋げたりとか、適材適所でみんなの意見を聞いて組織を作っていくことが好きだったので、人を繋げる立ち位置になることが多かったですね。
自分で会社をやっていきたいなという想いはありましたが、明確に「こんな会社をやりたい!」というビジョンは特に無かったです。「ビジネスの最前線に立ちたい!」や、「世界平和を達成したい!」みたいな大きな想いは無く、どちらかというと自分が好きな人たちと一緒にビジネスをやって、楽しく働けたらいいなという想いがありました。
私が勤めていた税理士法人は一般的な会計事務所とは少し異なり、移転価格に特化したコンサルティングを行っていました。移転価格とは、多国籍企業の親会社と子会社の間で行われる国際取引における適切な価格設定のことを指します。各国の税率が異なるため、適切な価格設定を行わないと、税負担を不当に軽減することが可能になってしまうのです。
私たちのチームは、市場環境や親子会社の役割・リスクを分析し、取引の合理的な価格を導き出すコンサルティングを行っていました。これは税務というよりも、ビジネスに深く関わる分析業務だったので、幅広い業界やビジネスモデルに触れることができる点に魅力を感じていました。
税理士法人で勤務をするうちに自分で事業を立ち上げ、経営に携わりたいという想いがより強くなっていき、ベンチャー企業への転職を考え始めました。そんな中、たまたま大学時代にインターンシップで関わっていたVCが、今の株式会社エアトリ(インバウンドプラットフォームの親会社)の前身となる会社に出資していました。その会社が新規上場(以下、IPO)を目指す中で、IPO実務の担当者を探していると知り、ご縁があって転職することになったのです。
IPO実務は、管理部門の整備など、コンサルティング時代に培ったスキルが活きる領域だと感じました。転職当初は、現エアトリの社長の柴田さんと二人三脚でIPOを推進し、2016年に東証マザーズに上場でき、2017年に東証一部に指定替えを果たしました。
IPOを経験した後は、自分の事業に本腰を入れて取り組もうと決意し、現在のインバウンドプラットフォームの構築に邁進しています。
税理士法人での経験を経て、ベンチャー企業で事業立ち上げに挑戦できたことは、私のキャリアの大きな転機でした。
「人」に向き合う
社長就任までの最大の課題は、やはり優秀な仲間を集め、強力なチームを組成することでした。
私が現在率いているインバウンドプラットフォームは、もともとエアトリ社内で私が関わっていたM&Aや新規事業を複数統合して立ち上げた会社です。私自身、M&A先の企業で代表や取締役を務め、経営に深く関与していました。
このように複数の事業を統合して新会社を設立し、そこからIPOを目指すというのは、非常に珍しいケースだと思います。
この新会社を立ち上げ、社長として更なる成長とIPOを目指していく中で、何よりも重要だったのは「人」でした。志を同じくする優秀な仲間を集め、一丸となって目標に向かって進んでいけるチームを作ることが不可欠だったのです。
優れた人材に声をかけ、共感してもらい、参画してもらう。そしてメンバーのモチベーションを高く維持していく。このプロセスには多くの労力を費やしましたし、様々な困難もありました。しかし、強固なチームなくしては成功はあり得ません。だからこそ、人材の確保とチームビルディングには最も注力をしてきました。
事業を統合し、新たな組織を立ち上げ、そこでチームを作り上げていく。そうした過程で直面した様々な困難を乗り越えてこられたからこそ、今の事業の基盤があるのだと感じています。
当社では大きく分けて3つの事業を展開しています。
1つ目は「モバイルネットワーク事業」です。これは、訪日外国人向けにWi-FiルーターやeSIM、SIMカード、携帯電話などをレンタル・販売するサービスです。現在、当社の売上の8割以上を占める主力事業となっています。
2つ目は「ライフメディアテック事業」です。言語の壁や情報不足により、訪日外国人がアクセスしづらいサービスがまだまだ多くあります。そうしたサービスに外国人を効果的に取り次ぐため、多言語での情報発信や専用サイトの構築、コンシェルジュの配置などを行っています。
3つ目は「キャンピングカーレンタル事業」です。日本を旅行する外国人旅行者のキャンピングカー需要は強く、当社の利用者も8割以上が外国人です。
この3事業全てが外国人のニーズに応えられていると思いますが、特に力を入れているのは「モバイルネットワーク事業」と「ライフメディアテック事業」の新規サービス立ち上げです。
モバイルネットワーク事業は売上の柱として、さらなる成長を目指します。一方、ライフメディアテック事業では、特に「移動領域」の新サービス開発に注目しています。訪日外国人は必ず国内を移動するために新幹線、バス、レンタカー、タクシーなどの移動手段を利用します。こうしたサービスを外国人に分かりやすく提供する仕組み、いわゆるプラットフォームの構築を急ピッチで進めているところです。
訪日外国人のニーズを的確に捉え、利便性の高いサービスを提供することが我々の使命だと考えています。そのために、これら3事業をバランス良く成長させつつ、ニーズに沿った新規事業の立ち上げにも果敢に挑戦し続けたいと思います。
コロナ禍を乗り越えて
コロナ禍では本当に大変な状況に直面しました。当社は2023年8月に上場を果たしましたが、もともとは2021年の上場を目指していました。2019年は訪日客の増加により業績は右肩上がりで、順調に上場準備を進めていました。
ところが、2020年4月に緊急事態宣言が出され、売上の9割以上が消失してしまいました。当時、既に大きな組織を抱えており、毎月数千万円の固定費がかかる状況でした。このままでは9ヶ月後に資金が尽きる、つまり倒産の危機に直面したのが2020年4月でした。
とにかく出血を止めるため、固定費削減に動きました。何とかリストラを避けるために、まずは従業員の休業を進めました。当時はまだ十分な補助金制度もなく、役員だけが出社し、オペレーションを回す体制を取っていました。並行して、金融機関を回って融資を受けられるよう奔走する日々が続きました。
この危機を乗り越えるターニングポイントは大きく2つありました。1つはM&A、もう1つは新規事業領域への参入です。
M&Aについては、2020年初頭から準備していた案件がありました。日本人向けに海外旅行用Wi-Fiをレンタルしていたグローバルモバイル社との案件です。当社は訪日外国人向けのWi-Fiレンタルを手がけていたので、シナジーが見込める良い案件でした。
しかしコロナ禍で、海外旅行も訪日旅行もほぼゼロになり、話は一旦白紙になりかけました。普通なら取り止めるところですが、あえてこのM&Aに踏み切ったのです。この会社は国内の法人顧客を多く有していました。コロナ禍でリモートワークが増えれば、国内Wi-Fi需要は伸びるはず。今こそグローバルモバイル社と手を取り合う絶好のタイミングだと判断したのです。この決断が功を奏し、国内法人の需要をしっかりと取り込むことができました。
もう1つの転機が、PCR検査事業です。2020年8月頃から、渡航や帰国時のPCR検査需要が高まり始めました。ところが、外国人向けのPCR検査サービスは皆無に等しい状況でした。言葉の壁もあり、日本に住む外国人から「どこで検査を受ければいいかわからない」との声が多く寄せられていたのです。
そこで当社は、提携病院を開拓し、外国人向けのPCR検査・コロナ関連情報サイトを立ち上げました。病院に自社スタッフを派遣して通訳や受付代行なども行ったところ、2020年9月以降、利用が急増。コロナ禍の中、累計5万組以上の外国人にPCR検査を提供することができました。
このM&Aと新規事業参入の2つの施策が奏功し、何とかコロナ禍を乗り切ることができました。現在は再び訪日客が戻りつつあり、事業環境も改善しています。あの危機的状況を乗り越えられたのは、スピード感を持った決断と行動があったからだと感じています。
お客様がオフィスに直接いらっしゃるケースは滅多にないです。ただ、当社では不動産事業の一環として賃貸仲介も手がけているので、そういった物件探しのお客様が来訪されることはあります。
また、海外企業との商談の際に、相手方の担当者がこのオフィスを訪れるといったこともあります。
当社の従業員の特性上、オフィスのデザインには気を配っています。実は社員の半数ほどが外国籍であったり、帰国子女だったり、海外にゆかりのある者たちなんです。オフィスに和風のエッセンスを取り入れるととても良い印象を持ってくださいます。
オフィスは社員が大半の時間を過ごす空間ですから、多様なバックグラウンドを持つ社員に居心地の良さを感じてもらえるよう、インテリアにも工夫を凝らしています。訪れるお客様にも、当社の多様性を感じ取ってもらえるような内装を心がけています。
(会議室では風神、雷神にお出迎えをしていただきました!)
「素直に」「やり抜く」「考え抜く」の三原則
採用基準は多岐にわたりますが、学生の皆さんにお伝えしたい、特に重要視をしている3つの資質があります。
1つ目は「素直であること」です。社会人経験が長くなるほど、素直でいることは難しくなります。自分のやり方や経験値に固執しがちになってしまうからです。
会社では様々な指示命令系統があり、上司との間で情報量や視座の差から、一見すると理不尽な指示を受けるケースもあります。しかし背景を紐解けば、納得できる理由があることが多いです。最初のうちは、理不尽に感じても素直に受け止めて実行してみることが大切だと考えています。
上司も完璧な人間ではありません。プライベートでのストレスを抱えていたり、様々な立場から板挟みになっているかもしれません。そんな時に反発するのではなく、素直に向き合うことが成長につながると考えています。
2つ目は「やり抜く力」です。できるまで頑張ればできる、という昭和の野球部のような話ですが、やり抜く力は非常に重要です。事業を成功させるには様々な苦難や壁があり、それを乗り越えて形にできるかどうかが鍵となります。今はSNSなどで多くの情報が溢れ、つい隣の芝生は青く見えてしまいます。でも一つのことに1年、2年、3年と向き合い、形にするまで頑張ってみる。そんな胆力を持つ人材が求められています。
3つ目は「考え抜く力」です。自分でしっかりと考えて行動する力ですね。先の2つとは一見相反するようですが、言われたことを素直にこなし、やり抜くことと、思考停止は異なります。なぜその指示が来たのか、実行する上でどんな可能性があるのか、自分なりに考え、納得感を持って進めてほしいのです。考え抜くことを止めれば、そこで成長も止まります。
この3つの資質を兼ね備えた人は稀有な存在ですが、まさに私たちが求める人材像です。
そういった素養を持つ方こそ、これからの時代に活躍できるはずです。ぜひ一緒に働きたいですね。
未来をつくる大学生へ
勉強でもスポーツでもアートでも遊びでも、どんなことにでもチャレンジをして多くの経験を培ってほしいなと思います。
あとはインターネットだったり様々な媒体から多くの情報を得られると思いますが、どこかで見た情報や誰かから聞いた情報を鵜呑みにせず、実際自分で体験・経験をして、それで判断をするような能力を身につけて欲しいなと思います。間違いなく将来自分の身になると思うので、多くの一次体験を積んで欲しいなと思います。
今回お話をお伺いしたのは・・・
株式会社インバウンドプラットフォーム
代表取締役社長 王 伸 氏
1987年生まれ、慶応義塾大学経済学部 卒業
2010年4月 税理士法人トーマツ 移転価格戦略コンサルティング入社
2013年9月 KPMG税理士法人 国際事業アドバイザー入社
2014年11月 株式会社エアトリ 経営企画室室長就任
2015年4月 株式会社エアトリ 執行役員就任
2016年8月 当社取締役就任
2016年12月 株式会社エアトリ 取締役就任
2018年8月 当社代表取締役社長就任
“また来たい、日本”
株式会社インバウンドプラットフォームは、訪日旅行客をはじめ、日本に来る世界中の人々の満たされていないニーズに応え、より快適に日本で滞在できるよう、徹底して顧客の視点に立ったサービスプラットフォームを作り上げ、再び日本に来たいと思える人を世界中に増やして行くことを目指している。